医療機器補修部品の在庫コストをABC分析で削る——適正数の決め方と運用ルール

補修部品の棚は、静かに利益を食う。

私がいた現場では、引き出しを開けるたびに「これ、最後に使ったのいつだっけ」と誰かが言っていた。

でも欠品が怖いから捨てられない。これは担当者の意識ではなく、仕組みの問題だ。

よくある失敗は「念のため」が数字になっていないこと

よくあるのは、ベテラン担当者の記憶で在庫数を決める運用だ。

「これは昔よく壊れたから5個置いておこう」

「海外取り寄せだから、とりあえず10個」

「前任者がそうしていたから、そのまま」

現場では自然な判断だ。止めたくない。顧客を待たせたくない。だから多めに持つ。

ただ、3年使っていない部品が20万円分残っていることもある。逆に、月に4回出る小さな部品が欠品することもある。

部品在庫の最適化で最初に見るべきなのは、気合いではない。使用実績、単価、リードタイム、停止影響だ。製造業の在庫削減コストは、ここを数字にしない限り見えない。

なぜ補修部品の在庫は増え続けるのか

原因は単純だ。入れる判断はあっても、減らす判断がない。

購入時は理由が残る。

「次回修理に備える」

「供給終了前に確保する」

「緊急対応用に持つ」

一方で、減らすタイミングは曖昧だ。年1回の棚卸しで数量は合っても、「今も必要か」までは見ない。

さらに、補修部品は品質、修理、購買、営業の間にまたがる。誰か一人が強く減らすと、別の部門から「欠品したらどうする」と言われる。

これは努力不足ではない。判断基準が共有されていないだけだ。

医療機器に関わる補修部品では、供給責任や記録管理の観点も無視できない。具体的な扱いは、一般にQMS責任者や薬事・品質責任者の確認が必要になる。

放置すると残業と顧客対応に跳ね返る

在庫が多いだけなら、まだ見えやすい。問題は、探す時間と判断待ちが増えることだ。

私が見た現場では、修理担当者が1個の部品を探すのに15分使っていた。棚番はある。でも同じ名前の旧版部品が別の箱にある。Excelの型番と現物ラベルも微妙に違う。

その間、作業は止まる。顧客への回答も遅れる。

欠品すれば、もっと重い。

「いつ直りますか」

「代替機はありますか」

「なぜ必要部品がないのですか」

この会話が始まると、現場は修理ではなく説明に追われる。[属人化が残業を生む流れ](/maintenance-personalization-overtime-cause/)と同じで、在庫も人の記憶に寄せるほど負荷が偏る。

改善するための判断基準は3段階でよい

最初から高機能な在庫システムを入れなくてよい。判断基準は3段階で十分だ。

手作業でよいのは、部品点数が少なく、月の出庫が数件の現場だ。棚卸し表に使用日、数量、発注日を足すだけで改善する。

テンプレで十分なのは、部品点数が100〜500点ほどあり、担当者が複数いる現場だ。ABC分析の表を作り、A品目だけ月次で見る。

ツール導入を考えるのは、拠点が複数ある、ロットや版数を追う、承認履歴を残す、欠品時の影響が大きい場合だ。

医療機器の補修部品では、品質記録や手順書との整合も関係する。最終判断は自社の責任者に確認する前提で進める。

ABC分析で適正数を決める手順

ABC分析は、全部の部品を同じ熱量で管理しないための方法だ。

まず、過去12か月の出庫数を出す。次に単価を掛ける。

年間使用金額 = 年間出庫数 × 単価

この金額が大きい順に並べる。累計比率で上位70〜80%をA、次の15〜20%をB、残りをCにする。

ただし補修部品は金額だけで決めない。安くても止まる部品がある。私はA判定の横に「停止影響」と「調達リードタイム」を足していた。

たとえば、単価500円でも納期60日で代替不可なら、Cのまま放置しない。逆に単価3万円でも年1回しか使わず、翌日入るなら安全在庫は少なくてよい。

[顧客要望のばらつきが品質リスクになる場面](/maintenance-quality-variation-customer-request-risk/)でも同じだ。判断を人に置かず、表に置く。

今日できる改善手順

Step 1は、棚卸し表に4列を足すことだ。

「過去12か月出庫数」「単価」「リードタイム」「最終使用日」を入れる。

Step 2は、A品目だけを先に決めることだ。全部を一気にやると止まる。上位20品目だけでよい。発注点、安全在庫、見直し周期を決める。

発注点の目安は、こう置ける。

1日平均使用数 × 調達リードタイム + 安全在庫

Step 3は、月1回の10分会議にすることだ。購買、修理、品質の代表でA品目だけを見る。議題は「増やす」「減らす」「廃止候補」の3つに絞る。

この運用なら、Excelでも始められる。大事なのは、表を作ることではない。誰が、いつ、何を見て判断するかを決めることだ。

おすすめの次アクション

まずは、A品目を20点だけ選ぶ。棚全体を完璧にしようとすると、現場は動けない。

次に、在庫表と修理記録をつなげる。どの故障で、どの部品が、何回使われたかを見る。ここが見えると、点検や予防交換の考え方も変わる。[機械音の違和感から保全品質を見る視点](/maintenance-quality-difference-machine-sound/)も役に立つ。

一人の担当者しか分からない棚なら、先に[医療機器メンテナンスの属人化対策](/medical-device-maintenance-depersonalization/)を読んで、引き継げる形に直す。

在庫削減は、捨てる活動ではない。必要な部品を、必要な数だけ、説明できる状態にする活動だ。

よくある質問

ABC分析はExcelだけでできますか

できる。最初はExcelやスプレッドシートで十分だ。必要なのは、部品名、型番、出庫数、単価、リードタイム、最終使用日だ。並べ替えと累計比率が出せれば始められる。

使用実績がない部品はどう扱いますか

最終使用日、供給可否、代替可否、停止影響で見る。使っていないから即廃止ではない。特に医療機器関連では、保守契約や品質上の判断が絡む場合があるため、責任者確認が必要だ。

安全在庫は何個が正解ですか

全品目に同じ数を置かない。A品目は短い周期で確認し、リードタイムと使用頻度から決める。C品目は定期購入をやめ、必要時発注に寄せられるかを見る。

在庫削減で現場から反発が出たらどうしますか

「減らせ」ではなく「欠品しないために見える化する」と伝える。現場が怖いのは在庫削減ではなく、必要な時に部品がないことだ。判断表を一緒に作ると話が進む。

ツール紹介

在庫表が個人ファイルのままだと、また属人化する。次に試すなら、テンプレートか在庫管理ツールのどちらかだ。

まずはABC分析テンプレートから始める

部品点数が数百点までなら、テンプレートで十分だ。出庫数、単価、リードタイムを入れるだけで、A・B・Cの優先順位が見える。

テンプレートを使う目的は、きれいな表を作ることではない。会議で同じ数字を見ることだ。

件数が増えたら在庫管理ツールを検討する

拠点が複数ある、承認履歴を残したい、バーコードで入出庫したい。こうなったらツールの出番だ。

ただし、導入前にABC分類と発注ルールを決めておく。ルールがないままツールを入れると、紙の混乱が画面に移るだけになる。

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