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「Aさんに聞けばわかる」が、現場の地雷になっている。
手順書はある。棚にファイルが並んでいる。でも誰も開かない。新人が迷うたびに、ベテランに確認が飛んでくる。その繰り返しが、今日も起きている。
これは担当者の勉強不足でも、管理職の怠慢でもない。手順書の設計が、「読んで動ける」構造になっていないだけだ。
現場でよくある失敗——「あるのに使えない」手順書
私がいた現場では、こういうことが繰り返し起きていた。
作業手順書を開くと、冒頭に目的が書いてある。次にページをめくると、いきなり操作手順が始まる。「この手順は誰が、どのタイミングで実施するのか」が書いていない。結果として、経験者だけが「どう当てはめるか」を知っていて、新人はその都度聞くしかない。
別の現場では、手順書の改訂履歴が5年前で止まっていた。機器のモデルが変わっているのに、書いてある操作手順は旧機種のものだった。誰も指摘しない。なぜなら「参照する文書」として扱われていないから使われていない。
もう一つよく見たのが、「判断を要する場面で止まる手順書」だ。「異常が見られた場合は適切に対応する」という一文が書いてある。「適切」の基準がどこにも書いていない。読んだ側は結局、判断できないまま上司を呼ぶ。
なぜ「使えない手順書」ができるのか
個人の文書力の問題ではない。構造の問題だ。
手順書を書く側は、その作業を「わかっている状態」で書く。だから「前提知識」を省略する。読む側は「わかっていない状態」で読む。だからその省略が、判断の空白になる。
加えて、更新の仕組みがない。誰かが気づいても、改訂申請のフローが面倒だったり、責任の所在が不明だったりして、放置される。文書は老いていく。現場の実態とのズレが広がる一方で、「手順書がある」という形式だけが残る。
これは情報設計の欠陥だ。書く側が想定した読者と、実際に読む読者が一致していないまま運用されている。
放置すると何が起きるか
手順書が機能しない現場では、特定の人間に判断が集中する。
その人が有給を取るたびに、作業が止まるか、品質がぶれる。引き継ぎが発生したとき、「あの人はどうやってたんだっけ」から始まる。顧客対応や監査対応のたびに、その場で手順を再構築する羽目になる。
医療機器の保守・修理の場面では、作業の再現性が品質に直結する。誰がやっても同じ結果が出ない作業は、品質記録の信頼性にも影響する可能性がある。詳細はQMS責任者や品質担当者と確認が必要だが、「手順通りにやった」が証明できない状態は、一般にリスクとして扱われる。
→ [属人化が引き起こす残業と品質ばらつきの関係はこちら](/maintenance-personalization-overtime-cause/)
改善のための判断基準——どこから手をつけるか
すべての手順書を一気に作り直す必要はない。まず3つの基準で仕分けする。
まだ手作業・口頭確認でよい場合:作業頻度が月1回未満で、担当者が固定されており、外部への影響が小さい。ここは優先度を下げる。
テンプレートで整備すれば十分な場合:複数人が関わる定期作業、頻度が高い点検・確認業務、引き継ぎが発生しやすい工程。既存の書式を整えるだけで効果が出る。
仕組みとして管理が必要な場合:規制上の記録が求められる作業、監査で参照される可能性が高い業務、担当者の異動リスクが高い工程。ここは文書管理の体制ごと見直す。
今日からできる改善手順
Step 1:「誰が」「いつ」「何をトリガーに」を冒頭に書く
目的の次に、対象者・実施タイミング・実施条件を明示する。「この手順は、○○機器の定期点検担当者が、○ヶ月ごとの点検日に実施する」という一文があるだけで、読み手の迷いが消える。
Step 2:判断基準を数値・状態・写真で示す
「異常があれば」ではなく、「〇〇の値が基準値△△を超えた場合」「目視で○○の状態が確認できた場合」と書く。写真や図を使って「正常」「要確認」「要交換」の状態を並べると、経験の浅い担当者でも判断が通る。
Step 3:改訂ルールとトリガーを明文化する
「機器モデルの変更時」「手順に変更が生じた際」「年1回の定期見直し時」など、改訂が必要になる条件を手順書の末尾に書いておく。改訂申請の窓口と責任者も明記する。これがないと、誰も改訂しない。
おすすめの次アクション
手順書の構成が整ったあとに起きやすい問題が、「個人依存の復活」だ。
形式は整っても、「やっぱりAさんに聞いた方が早い」という行動が続くと、手順書は再び棚の奥に戻っていく。手順書の活用と教育の仕組みを同時に設計する必要がある。
→ [一人依存リスクの構造と解消策はこちら](/medical-device-maintenance-solo-dependency-risk/)
→ [属人化の解消を組織的に進める方法はこちら](/medical-device-maintenance-depersonalization/)
手順書テンプレートの雛形が手元にある場合は、まずStep 1の「対象者・タイミング・条件」の欄を既存書式に追加するだけでも、現場の使いやすさが変わる。
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よくある質問
SOPと作業手順書は何が違うのか
SOP(Standard Operating Procedure)は、業務プロセス全体をカバーする文書体系を指すことが多い。作業手順書はその中の個別作業に特化した文書だ。医療機器業界では、QMS省令や関連規格に対応した文書管理の枠組みの中でSOPを整備することが一般的と考えられているが、具体的な文書の位置づけは組織のQMS体制によって異なる。自社の文書体系の設計は、QMS責任者や品質担当者に確認することを勧める。
手順書を書く人を誰にすべきか
理想は「その作業を一番よく知っている人」が書き、「その作業を知らない人」がレビューする組み合わせだ。書いた本人は「当然知っている」前提で省略しがちになる。知らない人が読んで「ここで迷った」と言う箇所が、手順書の弱点になる。
どのくらいの頻度で更新すればよいか
定期的な見直しサイクルを設けることに加え、機器変更・作業変更・ミス発生のタイミングでも随時改訂できる仕組みを用意しておくことが重要だ。「年1回の定期見直し」だけでは、実態の変化に追いつかないことがある。改訂のトリガー条件を手順書に明記しておくと、見直しの漏れが減る。
教育にはどう活用すればよいか
新しい担当者に手順書を渡して「これを読んでおいて」で終わらせると、使えない手順書の原因の一つになる。実際に手順書を見ながら作業を行い、「手順通りに動けたか」「判断に迷った箇所はどこか」を記録する形での教育が効果的だ。迷った箇所は手順書の改訂候補として扱う。
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ツール紹介
文書管理・版数管理ツール
手順書の版数管理と改訂履歴の追跡を、Excelや共有フォルダだけで行っている場合、誰かが古いバージョンを参照し続けるリスクが生まれる。クラウドベースの文書管理ツールを使うと、常に最新版だけが参照される状態を維持しやすくなる。医療機器業界では、QMS対応の文書管理システム(eQMS)を採用しているケースも増えている。自社の規模や文書体制に合うかどうかを確認した上で選択することを勧める。
手順書テンプレート・フォーマット設計支援
作業手順書のゼロからの設計が負担になる場合、業界標準に準拠した形式のテンプレートを活用することで、書くべき項目の抜け漏れを減らせる。「対象者」「実施条件」「判断基準」「改訂履歴」の欄があらかじめ設けられているテンプレートは、書く側の設計コストを下げる。まず1つの作業で試作し、現場からフィードバックを集めて改善するサイクルを回すのが現実的だ。
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