「来月点検の機器、全部拾えていますか」

この質問にすぐ答えられない現場は、すでに危ない。
医療機器の定期点検は、作業そのものよりもスケジュール管理で崩れることがある。点検周期が機器ごとに違う。施設ごとに希望日が違う。担当者の空き状況も毎週変わる。
最初はExcelで十分に見える。台帳を作り、最終点検日を入れ、次回点検予定日を計算する。色を付ければ分かりやすい。フィルターをかければ一覧も出せる。
だが、件数が増えると限界が来る。
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Excel管理が悪いわけではない
誤解してほしくない。Excelは悪くない。
小規模な管理なら、Excelはかなり強い。誰でも開ける。自由に列を追加できる。印刷もしやすい。現場で使い慣れている人も多い。
問題は、Excelを「作業台帳」ではなく「運用システム」として使い続けることだ。
定期点検の管理には、台帳以上の要素がある。
最終点検日から次回期限を計算する。期限前に担当者へ知らせる。点検が終わったら記録を残す。未実施のまま期限を過ぎた機器を拾う。担当者が変わっても状況が分かるようにする。
これらは、単なる表ではなく運用の流れだ。Excelだけで回すと、どこかで人間の記憶に頼る部分が残る。
[紙の作業記録をやめた現場で起きた変化](/maintenance-record-digitalization-change/)でも書いたが、デジタル化の目的は紙を画面に置き換えることではない。抜け漏れが起きにくい流れを作ることだ。
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漏れが起きるのは「確認ポイント」が人にあるから
点検漏れが起きたとき、現場ではよくこう言う。
「確認不足だった」
たしかに確認不足ではある。だが、本質はそこではない。
確認するタイミング、確認する人、確認する画面が決まっていないから漏れる。つまり、確認ポイントが仕組みではなく人に乗っている。
ある担当者は毎週月曜にExcelを開く。別の担当者は月末にまとめて見る。管理者は忙しいと確認を後回しにする。新人はどのフィルターを見ればいいか分からない。
これでは、点検期限を守れるかどうかが担当者の几帳面さに左右される。
医療機器メンテナンスで怖いのは、こうした小さな属人化だ。大きな事故ではなく、日々の小さな漏れが積み重なって品質を下げる。
[「あの人に任せたい」が会社の首を絞める](/customer-designated-worker-dependency-risk/)のように、特定の担当者だけが管理できる状態になると、担当者不在の瞬間に現場が止まる。
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Excel管理で限界が来るサイン
次の状態が出てきたら、表計算だけでの管理を見直すタイミングだ。
- 点検期限の確認を特定の人だけがやっている
- フィルターや色分けのルールを説明できる人が限られている
- 「この機器は点検済みか」を口頭で確認している
- 期限超過を後から発見することがある
- 担当者変更のたびに台帳の見方を教えている
- 台帳と実際の作業記録が別ファイルになっている
一つでも当てはまるなら、Excelそのものより運用設計に問題がある。
特に危ないのは、台帳と作業記録が分かれている状態だ。台帳では「予定済み」になっているが、作業記録では未完了。あるいは作業は終わっているのに、台帳の更新が漏れている。
このズレが起きると、管理者は毎回人に聞くしかなくなる。
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次のステップは「通知」と「状態管理」
いきなり大きなシステムを入れる必要はない。
最初にやるべきことは、通知と状態管理を分けて考えることだ。
通知とは、期限が近い機器を自動で知らせる仕組みだ。30日前、14日前、7日前など、現場に合うタイミングで担当者へ知らせる。これだけで「見に行かないと分からない」状態から抜け出せる。
状態管理とは、各機器が今どの段階にあるかを明確にすることだ。
未予定、予定済み、実施中、完了、保留、期限超過。
このように状態を分けると、管理者は「何が終わっていないか」をすぐ見られる。担当者も、自分が次に何をすればいいか分かる。
Excelでも一部はできる。ただし、通知や履歴管理まで入れるなら、GoogleスプレッドシートとGAS、Microsoft ListsとPower Automate、Notionデータベースなどを組み合わせた方が現実的だ。
[プログラマーなしで現場アプリを作った話](/medical-maintenance-ai-custom-app/)でも触れたように、今は管理職自身がAIに相談しながら小さな業務アプリを作れる。最初から完璧なシステムを目指す必要はない。
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移行するときは、いきなりExcelを捨てない
Excel管理から移行するときに失敗しやすいのは、最初から全部を変えようとすることだ。
これは危ない。
現場は日々動いている。点検予定も止まらない。新しいツールに慣れる時間も必要だ。だから、移行は段階的に進める。
まずは既存のExcelを正とする。次に、そのExcelから「期限が近い機器だけを通知する」仕組みを追加する。通知が安定したら、点検状態を管理する列を整える。最後に、作業記録やレポートとつなぐ。
この順番なら、現場の負担を増やしにくい。
重要なのは、ツール導入ではなく運用の標準化だ。誰が見ても同じ判断ができる。誰が休んでも次の人が引き継げる。その状態を作る。
[現場で本当に使われるチェックリストの作り方](/maintenance-checklist-how-to-medical-device/)と同じで、使われる仕組みは現場の流れに沿っている。管理者だけが満足する表を作っても、現場では続かない。
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まとめ——今日できる一歩
今日やるべきことは、ツール選定ではない。
まず、今の定期点検台帳を開いて「期限確認を誰が、いつ、どうやってやっているか」を書き出すことだ。
そこに人の記憶や口頭確認が入っているなら、そこが改善ポイントになる。最初の一歩は、期限30日前の自動通知だけでもいい。未実施一覧を毎週自動で出すだけでもいい。
Excelを否定する必要はない。だが、Excelに人間の注意力を足して運用しているなら、いつか漏れる。
漏れない人を探すのではなく、漏れにくい仕組みを作る。
定期点検管理のDXは、そこから始まる。
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よくある質問
Excel管理はすぐやめるべきか
すぐにやめる必要はない。件数が少なく、確認者が明確で、期限超過が起きていないならExcelでも十分に運用できる。ただし、通知・履歴・担当者変更への対応が必要になったら、Excel単体では限界が出やすい。
どのタイミングでツール導入を検討すべきか
点検対象が増え、担当者が複数になり、期限確認を口頭で補っている状態になったら検討すべきだ。特に「誰かがExcelを見てくれているはず」という運用になっている場合は危険信号になる。
医療機器の点検管理でクラウドツールを使ってよいか
使える場合はある。ただし、保存する情報の種類、アクセス権限、バックアップ、監査証跡、社内規程との整合を確認する必要がある。患者情報や機微情報を扱う場合は、より慎重な判断が必要になる。
最初に自動化するなら何がよいか
期限通知が最初に向いている。既存の台帳を大きく変えずに始められ、効果も分かりやすい。次に、未実施一覧の自動抽出、担当者別一覧、完了履歴の保存へ広げるとよい。
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ツール紹介
Googleスプレッドシート + Google Apps Script
既存のExcelに近い感覚で始めやすい。点検期限が近い行を抽出してメール通知する、未実施一覧を自動作成する、といった小さな自動化に向いている。Google Workspaceを使っている現場なら導入のハードルが低い。
Microsoft Lists + Power Automate
Microsoft 365を使っている組織なら候補になる。Listsで機器台帳を管理し、Power Automateで期限通知や承認フローを作れる。Teams通知との相性もよく、現場連絡をMicrosoft環境に寄せている会社では使いやすい。
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