# 第三種医療機器の製造販売を始める前に確認したいQMS構築の最低ライン
手順書のフォルダは整っていた。でも、調査の場で担当者が言葉に詰まった。
「この記録は、誰がいつ確認しているんですか?」
私がいた現場での話だ。QMS文書は整備したつもりだった。ところが実際の運用が追いついておらず、書類と実態が乖離していた。文書があることと、それが機能していることは、まったく別の話だ。
第三種医療機器の製造販売業を立ち上げる際、QMSの整備は避けられない。だが「最低限何をそろえればいいのか」を具体的に把握できている担当者は、思いのほか少ない。これは意識の問題ではない。要件の見えにくさが原因だ。
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QMS構築の現場でよく起きること
立ち上げフェーズに関わった経験から、よく見るパターンが三つある。
ひとつ目は「文書は作ったが運用していない」。手順書のテンプレートを埋めて、フォルダに格納して終わり。実際の業務では別のやり方をしていて、文書と現場の手順が別物になっている状態だ。
ふたつ目は「体制図は書いたが、役割が機能していない」。総括製造販売責任者の名前は登録した。でも本人が自分の役割を正確に把握していない、というケースがある。記載と実務が結びついていない。
三つ目は「記録の保管ルールが曖昧」。どの記録を、何年間、どこに保管するのか。担当者が変わったときに引き継げるレベルで決まっていない。これは後から整備しようとすると、想像以上に時間がかかる。
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なぜ「なんとなく整備した」で終わってしまうのか
QMS省令や関連する通知類は、要求事項を網羅的に示している。ただし「最初に何をやるか」の優先順位まではカバーしていない。
そのため、担当者は参考書や他社事例をつなぎ合わせながら整備を進めることになる。結果として、形式上の文書は揃っても、実運用との整合性が後回しになる。
さらに、社内に医療機器QMSの経験者がいない場合、「これで合っているのか」を確認できないまま申請準備が進んでいく。不安を抱えたまま作業しているのに、判断できる人間がいない状況だ。これは担当者個人の問題ではなく、組織として経験が蓄積されていないことから来る構造的な課題だ。
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放置すると何が起きるか
文書と実態が乖離したまま運用が始まると、問題は時間差で出てくる。
定期的な内部監査や適合性調査で、手順書と現場の違いが指摘される。是正対応が生じ、通常業務と並行して修正作業が走ることになる。担当者の残業が増え、重要な判断が後手に回る。
また、製品に問題が起きたときの調査対応が難しくなる。記録が残っていない、責任範囲が不明確、という状態では、関係者への説明に時間がかかる。顧客対応の質にも影響が出る。
こうした問題は「手順書さえあれば大丈夫」という認識のまま進んだ結果だ。業務の属人化が引き起こす問題については [医療機器保守の属人化解消](/medical-device-maintenance-depersonalization/) でも整理している。
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第三種医療機器に求められる体制の基本
一般に、第三種医療機器(クラスIII)の製造販売業では、管理監督体制と品質管理活動の両面が確認対象になると考えられている。最終的な判断は、QMS責任者や薬事担当者が監督官庁と確認することが前提だ。
体制として一般的に整備が求められると考えられるのは、次のような内容だ。
- 総括製造販売責任者の設置と業務分掌の明確化
- 品質保証責任者・安全管理責任者の配置と役割の実質化
- 市販後安全管理の仕組み(不具合情報の収集・評価・報告)
- 製造委託先の管理に関する取り決め(OEMの場合)
ここで重要なのは、名前を「登録した」だけでなく、その役割が実際に機能しているかどうかだ。担当者が一人に集中しているリスクについては [医療機器保守の一人依存リスク](/medical-device-maintenance-solo-dependency-risk/) でまとめている。
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最低限そろえておきたい手順書と記録
QMS文書の整備では、「いつ、誰が、何をするか」が文書から読み取れる状態が基本になる。
一般的に整備が求められると考えられる手順書の例を挙げる。
- 文書・記録の管理手順
- 内部監査手順
- 不適合品・是正処置・予防処置に関する手順
- 市販後安全管理に関する手順(不具合報告、顧客苦情対応)
- 製造委託先の管理手順(委託がある場合)
- 変更管理手順
記録については、「誰がいつ作成・確認したか」が後から追跡できることが重要だ。日付と承認記録の抜けは、指摘を受けやすいポイントになる。
なお、実際に何が必要かは製品の特性や委託製造の有無によっても異なる。自社の状況に応じた確認が必要だ。
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どのレベルまで整備すればよいか:判断の目安
整備の深さは、自社の状況に応じて変わる。
手作業・手書き管理でも実態が追えているなら、まずは文書の精度を上げることに集中するのが現実的だ。社内担当者が少なく、引き継ぎリスクがない段階なら、ExcelやWordで始めても問題は小さい。
一方で、担当者が複数いて、文書の版管理や記録の検索が追いつかなくなってきた場合はツール導入を検討するタイミングだ。変更管理や是正処置の進捗を複数人で共有する必要が出てきたとき、専用のシステムが効果を発揮しやすい。
まずテンプレートで構成を固め、運用フローを明文化する。そこから先は実態に応じて判断する、というのが無理のない進め方だ。
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今日から動ける改善の3ステップ
Step 1: 現状の文書と実態のギャップを書き出す
手順書と実際の業務の流れを並べて、担当者に「実際にはどうやっているか」をヒアリングする。乖離しているポイントを一覧にするだけで、修正の優先順位が見えてくる。
Step 2: 記録の保管ルールを一枚にまとめる
記録の種類ごとに、保管場所・保管期間・確認担当者を明記した一覧を作る。引き継ぎにも使えるように、「誰でも同じように管理できる状態」を目指す。
Step 3: 定期確認の仕組みを設ける
内部監査の計画を立て、文書と実態のチェックを定期的に行う体制を作る。最初は年1回でもよい。確認する仕組み自体を持つことが、最初の一歩になる。
次のアクションとして、QMS文書のひな形を整備するか、社内の現状把握から始めるかを判断する材料として、[保守品質のばらつきと顧客対応リスク](/maintenance-quality-variation-customer-request-risk/)の記事も参考になる。
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よくある質問
第三種医療機器とクラスIIIは同じですか?
一般的に、医療機器は人体へのリスクに応じてクラスI〜IVに分類されている。第三種医療機器はクラスIIIに相当し、一般的に高度管理医療機器のうち植込み型ではないものが含まれると考えられている。ただし、分類の詳細は製品の特性によって異なる。自社製品のクラス分類は、薬事担当者や監督官庁に確認することが前提だ。
QMS省令とISO 13485はどう違うのですか?
QMS省令は日本の薬機法に基づく省令で、日本国内での医療機器製造販売に適用される。ISO 13485は医療機器の品質マネジメントシステムに関する国際規格だ。一般に、QMS省令はISO 13485の要求事項をベースに構成されていると言われている。詳細な解釈や適用範囲については、QMS責任者や薬事の専門家に確認することが前提になる。
社内に経験者がいない場合、どこに相談すればよいですか?
PMDAや都道府県の薬務担当窓口への相談が一般的な選択肢になる。また、薬事コンサルタントや医療機器業界の支援団体を活用する企業も多い。独自に整備を進める場合でも、要所で専門家の確認を入れることが現実的な進め方だ。
許可申請の前にQMSをすべて整備しないといけませんか?
一般に、製造販売業の許可申請にはQMSの整備状況の確認が求められると考えられている。申請前にどの段階まで整備が必要かは、申請する許可の種類や自社の状況によって異なる。監督官庁や薬事担当者に確認し、必要な準備を明確にしてから進めることを勧める。
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ツール紹介
文書管理・QMS業務をデジタルで整理する
QMS文書の版管理や記録の検索が煩雑になってきたとき、クラウド型の文書管理ツールが選択肢になる。担当者の変更があっても記録を追跡しやすく、監査対応のスピードが上がる。
医療機器QMSに特化したシステムから、汎用型のドキュメント管理ツールまで選択肢はいくつかある。自社の規模と運用フローに合ったものを選ぶことが重要だ。まずは資料請求や無料トライアルで複数を比較するところから始めるのが現実的だ。
業務フローの可視化・標準化ツール
手順書の整備と並行して、業務フローを図として可視化するツールを使うと、担当者間の認識のずれを減らしやすくなる。
LucidchartやMiroといったオンラインホワイトボードツールは、チームでリアルタイムに業務フローを確認しながら描ける。手順書の文章にフロー図を添えておくと、新任担当者への引き継ぎがスムーズになる。費用をかけずに始められるツールも多いため、まずは一つのプロセスから試してみるとよい。


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