※本記事には広告・アフィリエイトリンクを含みます。
倉庫の棚が「偏っている」のは、担当者のせいではない
棚の一角に、同じ型番のパッキンが12個積み上がっている。
その隣の棚は空だ。「今週もあの部品が欠品で、修理が止まっています」と報告が来る。
これは珍しい光景ではない。私がいた現場でも同じことが起きていた。発注担当は悪くない。ルールがなく、記録もなく、感覚で補充してきた結果だ。
在庫の偏りは、個人の経験値の問題ではなく、仕組みの問題だ。
—
よくある失敗——「うちのことだ」と思う3つのパターン
パターン1:「去年使ったから」で発注し、使わずに余る
Aという型番の部品を去年3個使った。だから今年も3個入れておこう。そう判断して発注したものの、今年は機種切り替えが重なり、結局1個しか使わなかった。残り2個は棚に眠ったまま年度を越える。
パターン2:欠品してから動くため、緊急調達のコストが膨らむ
修理作業が入ってから「この部品、在庫がない」と気づく。急いでメーカーに問い合わせると、特急対応で割増料金がかかる。欠品自体は1日で解決しても、コストは通常発注の2〜3倍になる。これが年に何度も繰り返されている。
パターン3:廃番部品が倉庫を占領し、必要な部品の居場所がない
5年前に保有していた機種向けの部品が、今も棚に鎮座している。担当者が代わるたびに「念のため」と残されてきた結果だ。棚のスペースは有限なのに、死蔵在庫が新しい部品の置き場を奪っている。
—
なぜこの問題が起きるのか——原因は「記録の設計」にある
根本にあるのは、部品単位の使用記録が存在しないか、散在していることだ。
修理記録はあっても、「どの部品を何個使ったか」が紐づいていない。交換実績は担当者の記憶の中にある。発注履歴はあっても、使用時期と照合できない。
この状態で需要を読もうとすれば、感覚に頼るしかなくなる。
また、部品の「使われ方のパターン」は一様ではない。毎月コンスタントに使う部品と、年に1〜2回しか出番がない部品が混在している。それを同じ基準で管理しようとするから、過剰と欠品が同時に起きる。
—
放置すると何が起きるか——在庫問題が現場に与える4つの影響
在庫コストの固定化 死蔵在庫は資産計上されているが、実質的には使われないキャッシュだ。倉庫スペースのコストも加わる。
緊急調達費用の常態化 欠品対応の特急発注が「月に数回あるもの」として処理されると、それが当たり前になる。削れるコストが放置される。
修理待ち時間の延長 部品が届くまで機器が止まる。製造ラインなら稼働時間のロスに直結する。医療・検査機器であれば、業務スケジュール全体に影響が及ぶ可能性がある。
引き継ぎの断絶 「この部品は多めに持っておくべき」という知識が属人化したまま、担当者が変わると在庫設計ごとリセットされる。
—
改善のための判断基準——どこから手をつけるか
すべての現場に同じ解決策が合うわけではない。まず自分の現場がどの段階にあるかを確認する必要がある。
まだ手作業でよい場合:管理する部品点数が50品番以下で、修理頻度が月数件程度であれば、Excelのシンプルな台帳で十分対応できる。まず記録をつけることを優先する。
テンプレと運用ルールで十分な場合:品番数が50〜200程度で、記録はあるが発注判断がバラバラな場合。発注点と発注量を定めたルールシートを作るだけで、欠品と過剰の両方を大幅に減らせる。
ツール導入を検討すべき場合:品番が200を超えており、複数拠点で在庫を持ち、担当者が複数いる場合。手作業での管理は限界を迎えており、専用システムによる自動化が現実的になる。
—
今日できる改善手順——3つのステップで在庫設計を組み直す
Step 1:過去1〜2年の部品使用実績を品番ごとに集計する
修理記録、発注記録、在庫台帳を突き合わせ、「いつ・何個使ったか」を品番単位で整理する。使用頻度と使用タイミングの2軸で並べると、部品ごとのパターンが見えてくる。
Step 2:ABC分析で部品を3グループに分ける
使用金額(単価×使用数量)の累計比率でA・B・Cに分類する。上位70%をAグループ、次の20%をB、残り10%をCとする。Aグループは厳密に管理し、Cグループは発注頻度を絞る。この分類だけで、管理の優先度が明確になる。
Step 3:グループごとに発注点と最大在庫数を設定する
Aグループは「在庫がX個を下回ったら発注」という定量発注方式を適用する。Bは月次の棚卸しで判断する定期発注でよい。Cは使うたびに都度発注に切り替えることで、死蔵リスクを下げられる。
—
次にやること——記録の整備から始める
需要予測の精度は、記録の質に比例する。どんな分析手法を使っても、元データが曖昧では判断を誤る。
まず着手すべきは、修理1件ごとに使用部品と数量を記録する習慣をつくることだ。フォームはシンプルでいい。「機器名・部品番号・数量・日付」の4項目があれば、3ヶ月後には傾向が見えてくる。
在庫設計の考え方をもう少し体系的に学びたい場合は、設備保全や生産管理の観点から在庫最適化を扱った専門書が参考になる。在庫管理の基本理論(EOQ・安全在庫・発注点の計算)は、どの現場でも応用できる。
また、現場の修理業務が属人化しているなら、在庫問題と並行して[担当者依存のリスク](/medical-device-maintenance-solo-dependency-risk/)も見直しておく価値がある。
—
よくある質問
少量多品種の補修部品は需要予測できますか?
少量多品種こそ、パターン分類が有効だ。すべての品番を同じ方法で管理しようとせず、「高頻度品・低頻度品・年次消耗品」の3区分に分けて、それぞれ別の在庫ルールを適用する。特に年に1〜2回しか使わない部品は、発注リードタイムを調べた上で「発注点」だけ設定しておけば、日常的な管理工数はほぼかからない。
修理記録がバラバラで集計できない場合はどうすればいいですか?
まず「これ以降は統一する」と決めることが先決だ。過去データの整備は重要だが、完璧を求めて着手が遅れる方が損失は大きい。今月から新しいフォーマットで記録を始め、3ヶ月後に初めての集計を行う。過去分は手書き記録や発注書から拾えるものだけ補完する程度でよい。
安全在庫の計算はどうすればいいですか?
安全在庫の基本式は「安全係数 × 需要の標準偏差 × リードタイムの平方根」だ。Excelで計算できる。ただし、使用頻度が低い部品(年に数回程度)は統計的な計算が馴染みにくい。その場合は「最長リードタイム中に発生しうる最大使用数」を実績から読み取り、それを安全在庫とする経験的アプローチが現実的だ。
廃番になった部品はいつ処分すればいいですか?
「その機器がある限り保有する」と「使う可能性がなければ処分する」のどちらが正解かは、機器の残存期間次第だ。まず対象機器の廃棄予定時期を確認し、廃棄まで2年以内なら在庫を使い切る方針にする。廃棄が5年以上先なら、メーカーへの代替品確認と合わせて保有継続の是非を判断する。最終的には設備管理責任者と購買部門で合意した上で処分の判断を行うことが望ましい。
—
ツール紹介
需要予測と在庫管理の仕組み化を検討する段階では、現場規模に合ったツール選びが重要になる。
Excelベースの在庫管理テンプレート
部品点数が200未満でシステム導入コストを抑えたい現場では、Excelによる在庫管理テンプレートが出発点として有効だ。発注点・在庫残数・使用履歴を1ファイルで管理できる形式のものを選ぶと、導入の手間なく運用を始められる。書籍『生産管理・在庫管理の基本』(日本能率協会マネジメントセンター)は、現場担当者向けに在庫設計の考え方を平易にまとめており、社内で共通認識をつくる際にも活用しやすい。
クラウド型MROシステム・設備管理ツール
複数拠点・複数担当者での運用や、修理記録と在庫管理を一元化したい場合は、クラウド型のMRO(Maintenance, Repair & Operations)管理ツールが選択肢に入る。SmartMat(ライフラインサービス)やKizon(オプテックス)など、IoTセンサーと連携した自動在庫検知の仕組みを持つサービスも国内で利用できるようになっている。まず無料トライアルで自社の品番構成との相性を確認するのが現実的な進め方だ。
この記事に関連するサービス・書籍
-
Google Workspace
点検記録、報告書、チェックリストを共有し、最新版管理と検索性を高めやすい。紹介リンク経由で割引コードを利用できる場合があります。 -
図解ISO 13485の完全理解
ISO 13485要求事項・QMS省令・リスクマネジメントを網羅した実務書。
※ 紹介リンク・アフィリエイトリンクを含みます


コメント