棚の奥に、誰も使わない部品が並んでいる。
ラベルは貼られている。台帳にも載っている。でも最後に動いた日付は3年以上前だ。「いつか使うかもしれない」——その言葉が、倉庫を少しずつ埋めていく。
これは担当者の判断ミスではない。発注・保管・廃棄の仕組みが設計されていないことから起きる、構造的な問題だ。
デッドストックが生まれる「よくある現場」
私がいた現場でも、こういう場面は何度も見た。
設備が廃棄されたのに、その予備部品だけが残り続ける。「念のために」と多めに発注した部品が半分以上余る。メーカーが部品の型番を変更したことに気づかず、旧型が棚に積み上がる。
特に多いのが「設備更新時の取り残し」だ。設備を入れ替えるとき、新しい機械への対応で現場が忙しくなる。古い設備の予備部品の処遇は後回しになり、そのまま何年も残る。
もう一つは「保険的な過剰発注」だ。過去に部品切れで生産が止まった経験があると、担当者は多めに発注するようになる。その判断は合理的だが、回転しなかった部品の出口が決まっていないと在庫は膨らみ続ける。
なぜデッドストックは発生し続けるのか
個人の意識や注意力の問題ではない。仕組みに「抜け穴」があるから起きる。
発注時に「使用見込み」を確認するプロセスがない現場では、担当者の感覚だけで数量が決まる。台帳があっても最終使用日が記録されていなければ、どの部品が動いていないかを把握できない。廃棄や返品の手続きが煩雑だと、「処分する手間より置いておく方が楽」という判断が自然に生まれる。
また、部品管理の担当と設備管理の担当が別チームになっている現場では、設備が廃棄されても部品側に情報が届かないことが多い。情報の分断が、デッドストックを生む最大の温床になる。
放置するとどこに影響が出るか
在庫コストは目に見えにくい。でも確実に積み上がる。
保管スペースは有限だ。デッドストックが占有することで、本当に必要な部品の保管場所が足りなくなる。棚が整理されないまま部品が増えると、必要な部品を探す時間が増える。「あの部品、どこだっけ」という会話が毎週起きている現場は、在庫管理が機能していないサインだ。
期限のある部品(潤滑剤・消耗品・電子部品など)は劣化リスクも伴う。気づかないまま使用期限を超えた部品を使えば、品質トラブルの原因になりかねない。在庫の「見えない問題」が、現場の品質リスクに直結する。
さらに、引き継ぎの場面でも影響が出る。担当者が交代したとき、整理されていない在庫を受け継いだ側は「何が必要で、何が不要か」を判断できない。結局また「念のために置いておく」という判断を繰り返す。負の連鎖が続く。
処分の可否を決める判断基準
「捨てていいかどうか」を個人の判断に委ねてはいけない。基準を作ることで、担当者が迷わず動ける状態にする。
判断の軸は大きく3つだ。
最終使用日からの経過期間。一般に2〜3年以上使われていない部品は、使用頻度の観点からデッドストック候補として整理対象になる。ただし設備の稼働状況や点検サイクルによって基準値は変わるため、自社の実態に合わせて設定する必要がある。
対応設備の稼働状況。設備がすでに廃棄・売却済みであれば、その専用部品の保管を継続する合理的な理由はほぼない。設備台帳と部品台帳を紐づけておくことで、この判断が素早くできるようになる。
代替品・流用可否。同じ部品が他の設備にも使えるなら、デッドストックではなく共通在庫として再分類できる場合がある。「捨てる/残す」の二択ではなく、「転用できないか」という視点を挟む。
この3軸を組み合わせたシンプルなフローチャートを1枚作るだけで、担当者の迷いは大幅に減る。
今日からできる改善手順
Step 1: 在庫の「最終使用日」を記録する
台帳に最終使用日の列を追加する。すでに台帳がある場合は、列を一つ足すだけだ。次に部品を出庫するとき、必ずその日付を記録するルールを現場に周知する。これだけで「動いていない部品」が可視化される。
Step 2: 設備廃棄時に部品の処遇を同時決定するルールを作る
設備の廃棄・更新手続きの中に「専用部品の在庫確認と処遇決定」を必須ステップとして組み込む。チェックシートに一行加えるだけでよい。担当者が個別に判断するのではなく、プロセスとして抜け漏れを防ぐ。
Step 3: 年1回の棚卸しに「長期未使用品リスト」のレビューを加える
定期棚卸しのタイミングで、最終使用日から2年以上経過している部品を自動抽出する仕組みを作る。Excelの日付フィルターでも対応できる。リストを見ながら、処分・転用・継続保管を判断するレビュー会を15分でもいいから設ける。
おすすめの次アクション
在庫管理の問題は、部品単体の話ではない。[属人化した管理がどのように現場リスクになるか](/medical-device-maintenance-solo-dependency-risk/)を整理した記事も参考になる。
在庫の処分基準が整ったら、次は「そもそも発注量をどう決めるか」という上流の設計に着手する段階だ。発注ルールが感覚に依存している現場では、在庫削減の取り組みは長続きしない。
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よくある質問
何年使われていない部品をデッドストックと判断すればよいですか?
業界や設備の種類によって異なる。一般的には2〜3年を目安とする現場が多いが、点検サイクルが5年単位の設備では別の基準が必要になる。自社の設備稼働サイクルと照らし合わせて、判断基準値を独自に設定することを勧める。社内で合意が取れた基準を文書化しておくことが重要だ。
処分すると決めた部品はどう廃棄すればよいですか?
産業廃棄物に該当する部品は、適切な処理業者への委託が必要になる場合がある。また、医療機器関連の設備部品については、廃棄手続きに関して関係規定を確認することが望ましい。具体的な廃棄方法は社内の環境・品質担当者に確認してから判断することを勧める。
台帳をExcelで管理しています。何から手をつければよいですか?
まず「最終使用日」の列を追加することから始める。次に、設備との紐づけ(設備ID・設備名など)を列に追加する。この2つが揃うだけで、デッドストック候補の抽出が格段に楽になる。複雑なシステム導入より、今ある台帳の情報を充実させる方が即効性が高い。
在庫削減の目標値はどう設定すればよいですか?
「金額ベースで何%削減」という目標を先に置くより、まず現状の長期未使用品の総額を把握することを先にする。実態が見えないと目標も根拠がなくなる。現状把握→処分対象リスト作成→廃棄・転用実施→削減額確認、という順番で進める方が現場は動きやすい。
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在庫管理に使えるツール
クラウド型の設備・部品管理ツール
ExcelやGoogleスプレッドシートで限界を感じ始めたら、設備と部品を紐づけて管理できるクラウドツールへの移行を検討する価値がある。設備廃棄時に関連部品が自動的にリストアップされる仕組みがあると、今回のような「処遇漏れ」を構造的に防ぎやすくなる。現場の規模と運用体制に合わせて比較検討してほしい。
在庫管理に特化したスプレッドシートテンプレート
ツール導入の前段階として、Notionや専用テンプレートを活用して台帳の項目設計を整理するところから始めるのも有効だ。「最終使用日」「対応設備」「処遇ステータス」の3列が揃った台帳テンプレートを作っておくと、担当者交代時の引き継ぎもスムーズになる。


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