※本記事には広告・アフィリエイトリンクを含みます。
「前回と同じ周期で点検しておけば大丈夫」。この一言が、保全コストを静かに膨らませている。
点検簿を開くと、周期の欄はきれいに埋まっている。3か月ごと、半年ごと。数字だけ見れば整然としている。
でも「なぜこの周期にしたのか」を聞くと、誰も答えられない。「前任者から引き継いだ数字です」としか言いようがない。
これは担当者の経験不足ではない。保全周期を決める仕組みが、そもそも現場に存在しないだけだ。
よくある失敗
現場でよく見る保全周期の決め方には、共通点がある。
全機種を同じ周期でそろえる。 稼働時間が月200時間の機器も、月20時間の機器も、同じ「3か月点検」で管理している。実際には稼働負荷が10倍違う。
壊れてから初めて周期を疑う。 突発故障が起きて、ようやく「そういえば前回点検から1年経っていた」と気づく。事後対応が習慣化している。
引き継ぎのたびに根拠が消える。 担当者が変わると、周期を決めた理由や参照した数字は残らない。次の担当者は、前任者が残した数字をそのまま踏襲するしかない。
どれも「うちのことだ」と感じた経営者・管理職は少なくないはずだ。
なぜその問題が起きるのか
周期がなんとなくで決まるのは、担当者が怠けているからではない。情報がバラバラに存在しているからだ。
稼働時間はPLCのログか設備側の稼働カウンターに残っている。故障履歴は担当者個人のメモや修理伝票に散らばっている。点検記録は紙の点検簿か、部署ごとに違うExcelにある。
この3つを突き合わせないと、「どのくらいの稼働で、どんな故障が起きているか」は見えてこない。突き合わせる仕組みがなければ、感覚で決めるしかなくなる。
さらに、周期を変更するという行為自体にハードルがある。医療機器の保全に関わる場合、周期の変更は品質マネジメントシステム上の変更管理の対象になり得る。責任の所在があいまいなまま「なんとなく変える」ことを避けようとした結果、「今まで通り」が一番安全な選択になってしまう。
つまり、個人の判断力の問題ではなく、データを集める仕組みと、変更を判断する仕組みの両方が欠けているということだ。
放置すると何が起きるか
感覚頼りの周期設定を放置すると、コストとリスクが同時に膨らむ。
稼働の少ない機器まで一律の短い周期で点検すれば、人員と部品の無駄が積み上がる。逆に稼働の多い機器を長い周期のまま放置すれば、点検の間隔中に部品が寿命を迎え、突発故障につながる。
突発故障が起きれば、緊急対応で残業が発生する。予定していた点検スケジュールも崩れ、他の機器の保全計画にまで影響が広がる。
担当者交代のたびに周期の根拠が失われる状態が続けば、新任者は毎回ゼロから判断することになる。判断基準が引き継がれないため、拠点ごと・担当者ごとに周期がばらつき、顧客からの「なぜこの拠点だけ点検頻度が違うのか」という指摘にもつながりかねない。
こうした周期のばらつきが顧客対応にどう波及するかは、[品質のばらつきと顧客要求リスク](/maintenance-quality-variation-customer-request-risk/)でも触れている。
改善するための判断基準
すべての現場が今すぐデータ分析基盤を導入すべきというわけではない。規模に応じた判断基準を持つことが重要だ。
対象機器が10台未満で、稼働時間の差も小さい場合は、手作業の集計で十分なことが多い。まずはExcelで稼働時間と故障日を並べるだけでも、感覚頼りからは一歩抜け出せる。
機種数が増え、拠点をまたいで同じ様式で記録したい場合は、統一テンプレートの整備が優先になる。テンプレートがあれば、誰が記録しても同じ項目が残り、比較が可能になる。
機種数が数十を超える、拠点が複数にまたがる、あるいは故障履歴と稼働データの突き合わせに毎回時間がかかっているという状態なら、ツールの導入を検討する段階だ。手作業の集計コストが、ツール導入コストを上回っているケースは多い。
今日できる改善手順
Step 1: 過去1年分の稼働時間と故障履歴を1か所に集める。
PLCログ、修理伝票、点検簿をかき集め、機器単位で「いつ・何時間稼働して・いつ故障したか」を並べる。この時点でExcel1枚にまとめるだけでいい。
Step 2: 機種ごとに故障発生までの稼働時間を可視化する。
故障が起きた時点の累積稼働時間を機種ごとに並べると、「だいたいこの稼働時間帯で故障が増える」という傾向が見えてくる。これが周期見直しの土台になる。
Step 3: 見直し案を作り、責任者に確認してもらう。
データから導いた周期案は、そのまま現場判断で確定させない。医療機器が関わる場合は、QMS責任者や品質保証の責任者に必ず確認を通す。周期の変更が規制上どう扱われるかの最終判断は、現場担当者ではなく責任権限を持つ人が行うべき領域だ。
おすすめの次アクション
データを集める前に、まず記録のばらつきそのものが問題になっている現場も多い。担当者ごとに点検内容が違う、記録の粒度が違うという場合は、[保全の属人化と残業増の関係](/maintenance-personalization-overtime-cause/)を先に確認しておくと、周期分析の土台が整いやすい。
また、機械音の変化など感覚的な予兆管理に頼っている現場は、[音による品質差の記事](/maintenance-quality-difference-machine-sound/)も合わせて読んでおくと、データ化すべき項目の輪郭がつかみやすくなる。
特定の担当者しか周期の根拠を知らないという状態にすでに近い場合は、[属人化リスクの記事](/medical-device-maintenance-solo-dependency-risk/)と[脱属人化の記事](/medical-device-maintenance-depersonalization/)を先に読むことをすすめる。周期の見直しは、属人化の解消とセットで進めたほうが定着しやすい。
よくある質問
Q1. 保全周期はデータだけで決めてよいか
いいえ。稼働データと故障履歴から導いた周期案は、あくまで見直しの出発点になる。医療機器の場合、メーカーが提示する推奨周期や、適用され得る法令・QMS要求との整合を確認する必要がある。最終的な周期の確定は、品質保証や薬事の責任を持つ担当者の判断に委ねるべき領域だ。
Q2. 稼働データがまだ存在しない場合はどうすればよいか
いきなり自動収集の仕組みを整える必要はない。まずは点検時に稼働カウンターの数値を手動で記録することから始めればよい。3か月分のデータがたまるだけでも、傾向をつかむ材料になる。
Q3. 周期を延ばすとどんなリスクがあるか
延ばした周期の間に部品寿命を迎える可能性が高まる。突発故障のリスクだけでなく、変更の記録が残っていないと、監査や問い合わせの際に説明が難しくなる場合がある。周期変更は必ず変更管理として記録し、根拠データを残しておくことが望ましいと考えられる。
Q4. データ分析ツールの導入はどのくらいの費用感か
機器の台数や必要な機能によって幅が大きい。小規模なら無料〜低価格のクラウド型ツールで始められることが多く、大規模な拠点展開になるほどCMMS(設備保全管理システム)のような本格的な仕組みが検討対象になる。まずは小規模なトライアルから始め、自社のデータ量に見合う規模を見極めるのが現実的だ。
ツール紹介
自社で集めた稼働データと故障履歴を、Excelの手作業だけで分析し続けるのは、機種数が増えるほど限界が来る。ここからは、周期の見直しを仕組み化する際に検討候補になるツールの方向性を紹介する。
CMMS(設備保全管理システム)
稼働時間・点検記録・故障履歴を一元管理できるシステムだ。機器ごとの点検周期を自動でアラート表示できるため、「前回と同じ周期」から抜け出す第一歩になる。中小規模から使えるクラウド型のサービスも増えており、紙やExcelからの移行負荷は年々下がっている。
IoTセンサー+稼働監視ダッシュボード
稼働時間の記録そのものを自動化したい場合は、後付けのIoTセンサーで稼働状況を収集し、ダッシュボードで可視化する構成が候補になる。手動記録の手間を減らせるだけでなく、稼働パターンの変化を早期に検知できるため、周期の妥当性を継続的に見直す基盤としても機能する。
この記事に関連するサービス・書籍
-
Google Workspace
点検記録、報告書、チェックリストを共有し、最新版管理と検索性を高めやすい。紹介リンク経由で割引コードを利用できる場合があります。 -
図解ISO 13485の完全理解
ISO 13485要求事項・QMS省令・リスクマネジメントを網羅した実務書。
※ 紹介リンク・アフィリエイトリンクを含みます

コメント