医療機器「製造業」と「製造販売業」を正しく理解する——許可・登録の区分とQMS整備範囲の実務

「製造業と製造販売業、どちらが必要なんですか」

事業立ち上げの相談を受けるとき、この質問はほぼ必ず出る。許可証の棚には書類が並んでいる。でも、整備しているQMS文書の範囲が許可区分に合っていない。問題は担当者の知識不足ではない。用語と制度の構造そのものが、わかりにくくできている。

混乱が起きやすい3つの場面

場面1:「製造だけだから関係ない」

ある現場では、「うちは製品を作って渡すだけ」という認識で製造業登録だけを取得していた。ところが製品の一部を自社名義で市場に出すことになった時点で、製造販売業の許可が別途必要だとわかった。登録と許可は別物だ。気づいたのが販売開始後だったため、体制整備の立て直しに数ヶ月かかった。

場面2:「輸入販売業があれば十分だと思っていた」

海外メーカーの製品を日本で扱う場合、一般の商品感覚では「輸入して販売するなら販売業」と解釈したくなる。だが薬機法の枠組みでは、外国製造業者から製品を輸入して国内市場に出す立場には、「製造販売業の許可」が必要だと一般に考えられている。薬事担当者を置かないまま動き始め、後から指摘を受けて立ち止まったケースを複数見た。

場面3:「QMS文書を整備したが範囲が足りなかった」

製造業登録の要件に合わせてQMS文書を整備した後、製造販売業の許可取得を目指した段階で、文書体系をほぼゼロから作り直すことになった現場がある。整備すべき範囲が違うのだから当然だが、最初の設計で見通せていれば防げた。

なぜこの混乱が起きるのか

「製造販売」という言葉が、日常感覚と大きくずれている点が最初の壁になる。

製造販売業は「製造して販売する業態」ではない。「製品を市場に出す責任を持つ主体」と理解したほうが実態に近い。実際に製造工程を持たない会社でも、製造販売業の許可が必要になるケースがある。この逆転が、最初の判断を難しくしている。

もう一つの原因は、薬機法とQMS省令の関係が見えにくいことだ。省令がどの許可・登録に対してどの範囲で適用されるかは、文書を読むだけではなかなか掴めない。

さらに立ち上げ期の組織では薬事専門の担当者を確保できないことが多く、社内で解釈するしかない状況になる。個人の努力の問題ではなく、情報設計と人材確保の仕組みの問題だ。

放置すると何が起きるか

許可・登録の区分を誤ったまま販売を始めると、無許可販売として行政処分の対象になりうる。この点は最終的に所管の行政機関や薬事責任者が判断すべき事項だが、経営リスクとして早期に認識しておく必要がある。

QMS文書の整備範囲がずれたまま監査を迎えると、指摘事項の対応に大きな工数がかかる。対応期間中に出荷停止や販売中断が発生すれば、取引先への影響は避けられない。

現場担当者が深夜まで書類を整えても、設計段階の判断ミスは個人の努力では補えない。

製造業と製造販売業、何が違うのか

二つの区分を端的に整理する。

製造業(登録) は、実際に製造工程を行う拠点に求められる。工程の管理、設備の維持、記録の保持が主な要件になる。外国製造業者の登録も含まれる。

製造販売業(許可) は、製品を「市場に出す責任を持つ主体」に求められる。安全管理責任者・品質保証責任者・国内品質業務運営責任者の選任、QMS省令に基づく文書体系の整備、市販後安全管理の仕組み構築が求められると一般に考えられている。

どちらが自社に必要か、あるいは両方必要かは、「誰が製品を市場に出すか」「自社は製造工程を持つか」「輸入か国内製か」という3点を整理することで見えてくる。具体的な要否はクラス分類や業務形態によっても変わるため、薬事責任者や行政機関への確認が判断の基本になる。

QMS整備の範囲はどう変わるか

製造業登録の立場であれば、QMS省令のうち製造工程の管理に関する部分が中心になる。製造記録、工程管理、設備管理、資材管理といった領域だ。ISO 13485を参照する場合、製造・監視・測定に関する章が主な対象になる。

製造販売業の許可を持つ立場では、設計から市販後管理までのサイクル全体をカバーする必要がある。リスクマネジメント、設計管理、苦情処理、市販後調査、是正措置・予防措置(CAPA)の仕組みが求められる。文書の量も体制の規模も変わる。

第三種医療機器(クラスIII)を扱う場合は、文書の精度と体制の確かさがより問われる傾向がある。どの程度が求められるかは製品特性や審査状況によるため、早い段階で薬事担当者・品質責任者と整備方針をすり合わせることが重要だ。

今日から動けるステップ

Step 1:自社の立場を一枚の紙で整理する

「誰が製造するか」「誰が市場に出すか」「輸入品か国内製か」の3点を書き出す。この整理なしにQMS文書を作り始めると、後から範囲のずれが出やすい。作業を始める前の30分が、後から数ヶ月を救う。

Step 2:QMS文書の整備範囲を先に決める

許可・登録の種別が見えたら、QMS省令のどの章が自社に適用されるかを薬事責任者と確認する。ISO 13485を参照する場合も、適用除外の根拠を明文化しておくと監査対応がしやすくなる。

Step 3:監督者要件を人事計画に組み込む

製造販売業の許可では、安全管理責任者・品質保証責任者などの要件がある。選任できる人材が社内にいるかを早期に確認し、必要であれば採用・育成の計画を立てる。ここを後回しにすると、許可申請のタイミングで詰まる。

おすすめの次アクション

QMS文書の整備は、許可区分を踏まえた体制設計から始まる。文書の担当が特定の人に集中している状況がどれだけリスクになるかは、[医療機器メンテナンスにおける属人化対策](/medical-device-maintenance-depersonalization/)で整理している。また、現場での引き継ぎ問題がどのように品質に響くかは[属人化が引き起こす修理現場の残業問題](/maintenance-personalization-overtime-cause/)も参考になる。

体制整備を進める際は、QMS文書テンプレートや比較ツールを使って優先順位を絞り込むことを勧める。

よくある質問

製造だけして販売しない場合、製造販売業の許可は不要ですか?

製造工程のみを担う場合、製造業登録の対象になると一般に考えられている。ただし、「自社が市場に出すかどうか」が判断の分かれ目になる。同じ製品でも取引構造によって立場が変わることがあるため、具体的な判断は薬事担当者や行政機関への確認が必要だ。

第三種医療機器を扱う場合、QMSはISO 13485の認証取得が必須ですか?

QMS省令に準拠した管理体制が必要だと一般には考えられている。ISO 13485はQMS省令との整合性が高いため参照されることが多いが、認証取得の要否は製品クラスや審査状況によって変わる。実態として求められる管理水準を満たせるかどうかが重要であり、詳細はQMS責任者や申請窓口への確認を推奨する。

国内品質業務運営責任者は外部委託できますか?

責任者として選任できる要件は薬機法・省令で定められており、単純な外部委託が認められるかどうかは状況によって異なる。外部の専門家に一部業務を依頼するケースはあるが、要件の充足については薬事担当部門と慎重に確認する必要がある。中長期的には、社内に要件を満たす人材を育成・確保することがリスク管理として有効だと考えられる。

QMS文書の整備はどこから始めればよいですか?

まず自社が製造業か製造販売業か、あるいは両方の立場かを整理し、適用される省令の範囲を確認することが出発点になる。現状の管理状況と求められる水準のギャップを可視化した上で、許可申請に必要な文書から順番に整備していくほうが、現場の負荷を分散しやすい。一気に全文書を揃えようとすると行き詰まる。

ツール紹介

QMS文書テンプレート・ギャップ分析ツール

QMS省令やISO 13485に対応した文書テンプレートを使うと、整備すべき項目の抜け漏れを減らしやすい。ギャップ分析シートがセットになったものであれば、現状評価から整備の優先順位づけまで一貫して進められる。SaaS型のQMS管理ツールも増えており、文書のバージョン管理や承認フローを仕組み化できるものも選択肢に入る。

薬事専門の研修・eラーニングサービス

製造業と製造販売業の区分、監督者要件、QMS省令の読み方は、社内でゼロから学ぶには時間がかかる。薬事専門の研修サービスやeラーニング教材を活用することで、担当者の理解を短期間で底上げできる。事業立ち上げ期は外部の学習リソースを積極的に使うことが、整備スピードの向上につながる。

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