許可を取れば、売れる。そう思っていた経営者を何人も見てきた。
だが実際には、製造業許可と製造販売業許可は別物だ。片方だけ取って、市場に出せずに半年止まった会社を知っている。
担当者が悪いわけではない。許認可の構造そのものが、初参入の事業者には分かりにくく設計されている。
これは知識不足の話ではなく、事前に整理すべき情報が整理されていないまま走り出してしまう、仕組みの問題だ。
よくある失敗
医療機器業界に新しく参入する事業者で、繰り返し見る失敗が3つある。
1つ目は、製造業許可だけ取って満足してしまうパターンだ。工場で機器を作れるようにはなったが、それを市場に出す責任主体がいない状態になる。
2つ目は、製造販売業許可を取ったものの、QMS体制が実態を伴っていないパターンだ。書類上は総括製造販売責任者・国内品質業務運営責任者・安全管理責任者を置いているが、実際の業務フローとひもづいていない。
3つ目は、クラス分類を後回しにしたまま申請準備を進めてしまうパターンだ。クラスⅠなのかⅡ〜Ⅳなのかで、必要な手続きも審査の重さもまったく変わる。ここを詰めずに進めると、後工程がすべて手戻りになる。
いずれも、経営判断の前段階でつまずいている。
なぜその問題が起きるのか
原因は担当者の能力ではなく、許認可の設計思想が「役割分担」を前提にしていることにある。
日本の医療機器規制は、作る主体(製造業)と、市場に出して責任を負う主体(製造販売業)を分けている。この分業構造自体は、品質と責任の所在を明確にするための仕組みだ。
ただし、初めて参入する事業者にとっては、この分業が直感的ではない。一般の製造業の感覚だと、「作れる=売れる」と考えがちだからだ。
さらに、申請先も一本化されていない。製造業許可は都道府県、製造販売業許可は都道府県を経由した申請になる区分があり、機器のクラスによって関わる機関や手続きの重さも変わる。どこに何を確認すればいいのか、初見では見えづらい。
情報が分散していること自体が、混乱の主因になっている。
放置すると何が起きるか
許認可の整理を後回しにしたまま準備を進めると、影響は開発フェーズの終盤で一気に表面化する。
まず、上市のタイミングがずれる。製造ラインは完成しているのに、製造販売業側のQMS体制が整っていなければ、出荷できない。投資回収の計画そのものが狂う。
次に、監査対応の負荷が跳ね上がる。QMS体制を「後付け」で整えた組織は、文書と実態のズレを突かれやすい。是正のたびに現場が止まる。
さらに、属人化が進む。許認可周りの経緯を知っているのが特定の1人だけ、という状態になりやすい。この人が抜けた瞬間、なぜその手続きを踏んだのか誰も説明できなくなる。これは[医療機器メンテナンスにおける属人化リスク](/medical-device-maintenance-solo-dependency-risk/)とまったく同じ構造の問題だ。
顧客対応にも影響が出る。納期の遅延理由を説明できず、信頼を損なう。
改善するための判断基準
すべてを一度に整えようとする必要はない。事業のフェーズに応じて、判断基準を分けて考えるとよい。
まだ事業計画段階で、扱う機器のクラスも確定していない場合は、手作業でのリサーチと専門家への相談で十分だ。ここで焦って申請書類のテンプレートを買う必要はない。
機器のクラスと事業モデル(自社製造か、他社への製造委託か)が固まった段階では、申請準備のテンプレートや チェックリストで進行管理をする段階に入る。ここで一度、[個人差が生む品質バラつきのリスク](/maintenance-quality-variation-customer-request-risk/)のような、属人的な判断に依存しない仕組みを意識しておくと後が楽になる。
複数の機器ラインを扱う、または海外展開も視野に入れる場合は、QMS文書管理や監査対応をシステム化するタイミングだ。ここまで来ると、Excelや紙の管理では情報が追いつかなくなる。
今日できる改善手順
Step1では、自社が扱う予定の医療機器のクラス分類を確認する。クラスⅠ〜Ⅳのどこに該当するかで、必要な許可の種類と手続きの重さが変わる。ここが曖昧なまま先に進むと、あとの手戻りコストが大きい。
Step2では、製造業許可と製造販売業許可のどちらが、あるいは両方が自社に必要かを整理する。自社で製造まで行うのか、製造は委託して販売主体としての責任だけを負うのかで、必要な許可の組み合わせは変わる。この整理は経営判断であり、担当者任せにしない方がいい。
Step3では、QMS体制の骨格(総括製造販売責任者・国内品質業務運営責任者・安全管理責任者の配置と、それぞれの役割分担)を紙に書き出す。この時点で完璧である必要はない。まず「誰が何を判断するか」を可視化することが目的だ。
いずれの手続きも、最終的な要件確認や解釈は、QMS責任者や薬事・品質の専門家に確認しながら進めるべき領域だ。ここで断定的な自己判断をしないことが、後々の手戻りを防ぐ。
おすすめの次アクション
許認可の骨格が見えてきたら、次はQMS運用を「属人化させない仕組み」に落とし込む段階に入る。
例えば、点検や保守の記録が担当者の頭の中にしかない状態は、[機器の音の違いから品質差を読み取る現場感覚](/maintenance-quality-difference-machine-sound/)のような暗黙知と同じで、そのままでは組織の資産にならない。
また、担当者ごとに対応がバラつく状態を放置すると、[残業の個人差を生む原因](/maintenance-personalization-overtime-cause/)と同じ構造で、特定の人に負荷が集中していく。
QMS文書やメンテナンス記録の[脱・属人化](/medical-device-maintenance-depersonalization/)を early に進めておくと、許認可取得後の運用フェーズがぐっと楽になる。
よくある質問
製造業許可と製造販売業許可、両方必要ですか
自社で製造まで行い、かつ市場に出す責任も自社が負う場合は、一般に両方の許可が関係してくる。製造だけを担い、販売主体は別の事業者という場合は、製造業許可のみで足りるケースもある。どちらに該当するかは事業モデル次第であり、最終的な要否は都道府県の担当窓口や薬事の専門家に確認するのが確実だ。
申請先はどこになりますか
一般に、製造業許可は事業所所在地を管轄する都道府県が窓口になる。製造販売業許可も都道府県経由での手続きとなる区分があるが、機器のクラスや審査内容によって関わる機関が異なる場合がある。具体的な申請先は、事前に管轄窓口へ確認しておくと手戻りが少ない。
QMS体制はどのタイミングで整えればいいですか
許可申請の準備段階から並行して整え始めるのが望ましいと考えられる。許可が下りてから慌てて体制を作ると、書類と実態がずれやすく、監査対応で苦労するケースが多い。
クラス分類を間違えるとどうなりますか
クラス分類は必要な手続きの重さを左右するため、誤った前提で準備を進めると、申請書類の作り直しや審査の遅れにつながりやすい。分類の判断に迷う場合は、自己判断せず早めに確認を取ることが遠回りを防ぐ。
ツール紹介
許認可の整理と並行して、QMS文書や点検記録の管理方法も見直しておくと、申請後の運用がスムーズになる。属人化した紙・Excel管理から抜け出すための選択肢を2つ紹介する。
QMS文書管理テンプレート
総括製造販売責任者・国内品質業務運営責任者・安全管理責任者の役割分担や、CAPA・変更管理のフローを一元管理できるテンプレート形式のツールは、立ち上げ初期のコストを抑えつつ、監査対応の土台を作るのに向いている。
クラウド型QMS管理システム
複数の機器ラインや拠点をまたいで運用する段階になったら、クラウド型のQMS管理システムへの移行を検討する価値がある。記録の検索性と、担当者交代時の引き継ぎコストの低さが、Excel管理との大きな違いになる。


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