棚の奥に、箱のまま眠っている部品がある。ラベルの日付は数年前。誰が、なぜ発注したのかは分からない。それでも捨てる判断はつかず、棚卸しのたびに数だけ数えて元に戻す。
医療機器のメンテナンス部門では、こうした光景が珍しくありません。補修部品の在庫は、放っておくと増える方向にしか動かないからです。
この記事では、在庫が増えすぎる構造を3つに分けて整理し、「念のため」を根拠のある発注ルールに置き換える手順を紹介します。
在庫が増える3つの構造
1. 欠品の痛みと、過剰在庫の痛みが釣り合っていない
部品が欠品すると、修理が止まり、顧客への説明が必要になり、担当者が矢面に立ちます。一方で、在庫が余っても誰かが責められることはほとんどありません。
痛みが片側にしかなければ、人は痛みを避ける側に倒れます。担当者が多めに発注するのは、合理的な行動です。問題は個人ではなく、過剰在庫のコストが誰にも見えていない仕組みのほうにあります。
2. 発注の判断基準が人の頭の中にある
「この部品はだいたい3個あれば安心」という感覚は、経験から生まれた貴重な知識です。ただ、それが記録されていないと、担当者が変わるたびに基準も変わります。
慎重な人が担当すると在庫は増え、交代しても減ることはありません。前任者が積んだ在庫を、後任者が減らす根拠を持たないからです。
3. 「使わなくなった部品」を判断する人がいない
製品の販売が終わったり、設計変更で部品が置き換わったりすると、それまでの在庫は使われなくなります。ところが、在庫の担当者は製品の変更を知らされないことが多く、部品は棚に残り続けます。
発注のルールはあっても、在庫を減らす側のルールがない。これがデッドストックの正体です。
「念のため」を数字に置き換える
在庫を減らすというと、「念のため」を否定するように聞こえます。そうではありません。必要なのは、念のための量に根拠を持たせることです。
手順1:部品を3つに分ける
すべての部品を同じ熱量で管理する必要はありません。過去1年の使用金額で部品を並べ、上位から順に3つのグループに分けます。
| グループ | 目安 | 管理の仕方 |
|---|---|---|
| A | 使用金額の上位、全体の7割ほどを占める部品 | 発注点を数字で決め、毎月見直す |
| B | 中間 | 発注点を決め、四半期ごとに見直す |
| C | 残りの多数の部品 | まとめて発注し、年1回だけ見直す |
この分け方の詳しい手順は、ABC分析で補修部品の在庫コストを削減するで解説しています。
手順2:Aグループから発注点を決める
発注点は、「調達にかかる日数の間に使う量」と「ばらつきに備える分(安全在庫)」の合計です。過去の使用実績と、仕入先の納期が分かれば計算できます。
計算の手順は、安全在庫量と発注点をデータで決めるにまとめています。
ポイントは、計算した数字を「担当者の感覚」と並べて比べることです。差が大きい部品ほど、感覚の根拠を聞く価値があります。そこに、記録されていない現場の事情が隠れていることもあるからです。
手順3:減らす側のルールを作る
発注のルールと同じ重さで、在庫を減らすルールを決めます。
- 1年以上出庫のない部品は、四半期ごとに一覧にする
- 一覧は、製品の変更情報を持っている部門と一緒に確認する
- 「保有を続ける」「処分する」「代替品への置き換えを待つ」のどれかに、理由をつけて振り分ける
医療機器の補修部品は、保守期間中の供給義務や、製品ごとの保管条件が関わる場合があります。処分の判断は、自社の規定や製造販売業者との取り決めを確認したうえで行ってください。
判断の基準づくりは、使われずに眠る補修部品を減らすで詳しく扱っています。
在庫のコストを見えるようにする
最後に、最初の構造に戻ります。欠品の痛みだけが見えている限り、在庫は増え続けます。
月に1回、次の2つの数字を並べて共有するだけで、議論の前提が変わります。
- 欠品で修理が止まった件数
- 1年以上動いていない在庫の金額
両方が見えて初めて、「どこまで持つか」をチームで決められるようになります。
次にやること
- 過去1年の出庫データを出し、使用金額の上位から並べる
- 上位20品目だけ、発注点を計算して現状と比べる
- 1年以上出庫のない部品の一覧を作り、関係部門と見直す日を決める
全部を一度に変える必要はありません。上位20品目のルールが回り始めると、残りの部品にも同じ考え方が広がっていきます。

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