※本記事には広告・アフィリエイトリンクを含みます。
設備保全は、担当者の頭の中で完結している。
私がいた現場では、ベテラン保全担当の田中さん(仮名)がいなくなった瞬間、同じ設備の交換作業が2時間から5時間に伸びた。手順書はあった。でも「実際にやる順番」は別にあった。
これは田中さんの意識の問題ではない。情報が個人の記憶にしか存在しなかった、仕組みの問題だ。
よくある失敗
現場でよく見る失敗パターンを3つ挙げる。
1つ目は、手順書とやり方の乖離。紙やExcelの手順書は存在するが、実際の作業は担当者の経験で微調整されている。手順書通りにやると失敗する、という笑えない状況すらある。
2つ目は、交換記録が担当者のメモ帳止まり。部品交換の実績が本人のノートやスマホのメモにしかなく、次の交換時期の予測が誰にもできない。
3つ目は、異常対応の判断基準が口伝えのみ。「この音がしたら止める」「この数値まで下がったら交換」という閾値が、マニュアルではなく先輩から後輩への会話で伝わっている。
この3つは、機械音の違いによる品質差の話とも根が同じだ。感覚的な判断を言語化していないから、人によって結果が変わる。詳しくは設備音の違いと品質差の関係でも触れている。
なぜその問題が起きるのか
原因は担当者の能力ではない。情報設計と運用の仕組みが、属人化を前提に作られているからだ。
第一に、手順書を作る目的が「監査対応」になっている。実際の作業のためではなく、書類として存在させるために作られた手順書は、現場で使われない。
第二に、記録の入力先が統一されていない。紙の点検票、Excelの交換台帳、担当者個人のメモ。データが分散すれば、誰も全体像を持てなくなる。
第三に、新人教育がOJTのみに依存している。ベテランの背中を見て覚える方式は、教える側の負担が個人の残業時間に跳ね返る。これは残業の個人差が生まれる原因とも重なる。保全業務の属人化と残業の関係で構造を整理している。
放置すると何が起きるか
この状態を放置すると、影響は3方向に広がる。
品質面では、担当者によって仕上がりが変わる。同じ設備、同じ部品交換でも、実施者次第で仕上がりのばらつきが生まれ、それが顧客からの指摘やクレームにつながるケースもある。この点は品質のばらつきと顧客要求リスクで扱っている通りだ。
残業面では、ベテランへの依存が続くほど、その人の稼働時間が業務量の上限になる。休めない、代われない状態が固定化する。
引き継ぎ面では、退職や異動のタイミングで一気にリスクが顕在化する。医療機器の保全領域では、この一極集中が事業継続そのものを脅かすこともある。医療機器保全における一極依存リスクも参考になる。
顧客対応面では、担当者不在時の代替対応ができず、納期遅延や信頼低下に直結する。
改善するための判断基準
すべてをすぐにデジタル化する必要はない。判断基準を3段階で持つといい。
まだ手作業でよい場合は、対象設備数が少なく、担当者が固定できていて、かつ交代要員も同じ品質で対応できる状態だ。無理にツールを入れる必要はない。
テンプレで十分な場合は、設備の種類がある程度パターン化できており、手順のばらつきが「書けば揃う」レベルのものだ。Excelや共有ドキュメントの標準テンプレートで、まず属人化の言語化を進める。
ツール導入を考える場合は、設備数が多く、拠点が複数あり、交換履歴と点検記録を横断で検索・分析する必要が出てきたときだ。手作業やテンプレでは追いつかない規模になったら、デジタル管理への移行を検討する段階だ。
今日できる改善手順
Step 1は、1台だけ選んで標準作業手順を書き出すことだ。全設備を一気にやろうとすると止まる。ベテランに同行し、実際の手順を分解して言語化する。「なぜその順番か」まで聞く。
Step 2は、交換・点検記録のフォーマットを一本化することだ。紙でもExcelでも構わない。設備名、部品名、交換日、次回目安、担当者名、異常所見。この6項目を全設備で揃える。
Step 3は、新人や他担当者に手順書だけを渡してやらせてみることだ。つまずいた箇所が、手順書の抜けている部分だ。そこを埋めれば、手順書は初めて「使える」ものになる。
おすすめの次アクション
手順の言語化と記録の一本化ができたら、次は「誰が見ても同じ判断ができる状態」を目指す段階に入る。
標準作業手順のテンプレートを整備し、交換記録をデジタル台帳に移す。属人化の根本原因である「情報が個人にしかない状態」を解消することが目的だ。医療機器の保全であれば、記録の脱属人化についても医療機器保全の脱属人化アプローチを併せて確認しておきたい。
よくある質問
Q1. 標準作業手順書は誰が作るべきですか
現場のベテランと管理職が共同で作るのが望ましい。ベテランの経験知を、管理職が第三者目線で言語化する役割分担が機能しやすい。
Q2. Excelでの管理とツール導入、どちらから始めるべきですか
まずはExcelやテンプレートで手順と記録のフォーマットを揃えることから始めるべきだ。フォーマットが定まらないままツールを導入すると、入力ルールが結局バラバラになる。
Q3. ISO 13485などの品質マネジメントシステムとの関係はありますか
保全記録の標準化は、一般にQMS省令やISO 13485が求める記録管理の考え方と親和性があると考えられる。ただし規制適合の判断は、社内のQMS責任者や品質責任者の確認が必要であり、本記事の内容だけで適合を判断しないでほしい。
Q4. 手順書を作っても現場で使われません。どうすればいいですか
使われない手順書は、多くの場合「実際の作業と手順が違う」ことが原因だ。作って終わりにせず、現場で実際にやらせてズレを修正するサイクルを回す必要がある。
ツール紹介
手順の言語化と記録の一本化を自力で進めるのが難しい場合、既製のテンプレートや管理ツールを使うと立ち上がりが早い。
保全記録テンプレート
設備名・部品・交換日・次回目安・担当者・異常所見の項目をあらかじめ備えたテンプレートを使えば、フォーマット設計にかかる時間を省ける。まずは無料や低コストのテンプレートから試すのが現実的だ。
設備保全管理ツール
拠点や設備数が多く、履歴の検索性やアラート機能が必要になった段階では、保全管理に特化したクラウドツールの導入を検討する価値がある。導入前には、自社の設備数と担当者体制に合った規模のツールかどうかを見極めることが重要だ。
この記事に関連するサービス・書籍
- Google WorkspaceGoogleドライブ、ドキュメント、フォーム、スプレッドシートで、引き継ぎ書や手順書をチーム管理しやすい。紹介リンク経由で割引コードを利用できる場合があります。
- 小さな会社の〈人と組織を育てる〉業務マニュアルのつくり方業務マニュアル作成の実践書。属人化解消の第一歩として最適。
※ 紹介リンク・アフィリエイトリンクを含みます

コメント