ISO 14971リスクマネジメントファイルをゼロから設計する——危険源特定からリスク受容基準の設定まで

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家族で旅行の持ち物リストを作るとき、誰が保険証を持つか、誰が薬の在庫を管理するかを先に決めておくと、トラブルが起きても対応が早い——そんな経験がある方は多いと思います。医療機器のリスクマネジメントファイルも、「何を確認し、誰が記録し、誰が判断するか」をあらかじめ決めておく文書だという点は共通しています。ISO 14971に沿ってリスクマネジメントファイルをゼロから設計するとき、最初に検討すべきなのは、危険源をどこまで洗い出し、リスク受容基準を誰が決めるか、という具体的な判断です。

よくある失敗

現場でよく見かける(と考えられる)パターンを、仮想例として整理します。

仮想例1。ある医療機器メーカーでは、危険源の洗い出しを「過去に起きたクレームや修理履歴」だけに頼っていました。在宅での使用や、操作者の入れ替わりといった、使用環境側の変化は検討項目に入っていなかった、という仮想のケースです。

仮想例2。リスク受容基準が文書化されておらず、担当者の経験と感覚で判断されていた、という仮想例もあります。担当者が異動すると、同じ危険源でも評価結果が変わってしまう、という状態です。

仮想例3。リスクコントロール手段を実施した後、残留リスクの評価が「対応済み」という一言で済まされ、重大性や発生頻度の再評価が記録に残っていない、という仮想のケースもあり得ます。

なぜこの問題が起きるのか

これらの問題は、担当者の努力不足というより、仕組みや情報設計の問題である可能性が高いと考えられます。

候補として挙げられるのは、危険源を洗い出す手順そのものが標準化されておらず、設計担当者の経験や記憶に依存していること。情報源(クレーム、修理記録、市販後調査、類似機器の事故情報など)が部署ごとに分散していて、一か所に集約されていないこと。リスク受容基準を決める会議体や責任者が明確になっていないこと、などです。あくまで仮説であり、実際の原因は組織ごとに確認が必要です。

放置すると何が起きるか

危険源の洗い出しや受容基準の運用が属人的なままだと、いくつかの影響が出やすいと考えられます。

まず品質面では、設計変更のたびにリスク評価をやり直す範囲が担当者によってブレる可能性があります。次に、評価作業が特定の担当者に集中し、残業や心理的な負荷が増えやすくなります。さらに、担当者が異動・退職すると、過去の判断根拠が引き継がれず、同じ危険源を再度ゼロから検討する手間が発生します。顧客対応の場面でも、問い合わせに対してリスク評価の根拠をすぐに示せず、回答が遅れる、ということも起こり得ます。

改善するための判断基準

すべてをツールやシステムに頼る必要はありません。まずは手元の運用で対応できる範囲を見極めることが大切です。

取り扱う製品数や危険源の件数が少なく、関係者が数人に限られる場合は、エクセルなどの手作業による管理で十分なことが多いと考えられます。製品ラインが増え、危険源やリスクコントロール手段の件数が数十〜数百に及ぶ場合は、標準化されたテンプレートを整備したほうが、評価のばらつきを抑えやすくなります。複数の設計変更が並行し、市販後情報の反映や変更履歴の追跡が手作業では追いつかなくなってきた場合は、専用のツールや管理システムの導入を検討する候補になります。

今日できる改善手順

Step1。現在使っている危険源のリスト、リスク見積り(発生頻度×危害の重大性)、リスク受容基準の文書を一か所に集め、どこに何が書かれているかを確認します。

Step2。リスク受容基準が文書化されているか、誰が最終判断しているかを確認します。基準が暗黙的になっている場合は、QMS責任者や品質部門の責任者を交えて、受容可否の考え方を文書に落とし込む検討を始めます。

Step3。直近で実施したリスクコントロール手段について、残留リスクの再評価が記録に残っているかを確認します。記録が不十分な場合は、次の設計変更や定期レビューのタイミングで、評価項目として明示的に組み込みます。

おすすめの次アクション

ここまでの手順は、あくまで一般的な進め方の候補です。実際の適合性や審査対応に関わる最終判断は、QMS責任者や国内品質業務運営責任者など、組織内の責任者による確認が必要です。

社内のリスクマネジメント運用を見直す際は、関連する現場の課題もあわせて確認しておくと、全体像がつかみやすくなります。たとえば修理対応の属人化が進んでいる組織では、個人依存のリスクが品質記録の引き継ぎにも影響することがあります。また、対応品質が担当者によって変わるという課題も、リスクマネジメントの運用と根っこが近いことが多いようです。

よくある質問

ISO 14971のリスクマネジメントファイルは、何から作り始めればよいですか

一般的には、既存の危険源リストや過去のクレーム・修理記録など、手元にある情報を一か所に集めることから始める候補が多いようです。その上で、リスク見積りの方法や受容基準をどう決めるかを、品質部門を含めて検討する進め方が考えられます。

リスク受容基準は、どのように決めればよいですか

社内のリスクマネジメント方針として、どの程度のリスクまでを許容するかをあらかじめ定めておく進め方が一般的と考えられます。ただし具体的な基準の妥当性は製品特性や想定される使用環境によって異なるため、最終的な判断はQMS責任者など組織内の責任者による確認が必要です。

危険源の洗い出しはどこまで行えばよいですか

正常使用時だけでなく、誤使用や想定される使用環境の変化も含めて検討する候補が一般的に挙げられます。どこまで網羅すべきかは製品のリスクプロファイルによって異なるため、一律の基準を断定することは難しく、社内での確認が必要です。

設計変更があった場合、リスクマネジメントファイルはどう更新すればよいですか

変更内容がリスクに影響する可能性がある場合は、関連する危険源やリスク評価を再確認し、必要に応じて文書を更新する進め方が一般的と考えられます。市販後に得られた情報も、同様に反映の必要性を検討する対象になります。

ツール紹介

リスクマネジメントファイルの管理を手作業だけで続けると、文書量が増えるほど更新漏れや版管理のミスが起きやすくなります。そうした負担を減らす選択肢として、以下のようなツールも候補になり得ます。

リスクマネジメント専用ソフトウェア

危険源・リスク評価・コントロール手段・残留リスクをひも付けて管理できるソフトウェアは、変更履歴の追跡や版管理の手間を減らす候補の一つです。導入の必要性は、管理する危険源の件数や設計変更の頻度を踏まえて判断することが望まれます。

文書管理・QMSプラットフォーム

リスクマネジメントファイルを含むQMS文書全体を一元管理できるプラットフォームも選択肢になります。承認フローや変更履歴が自動で記録される仕組みは、引き継ぎ時の情報欠落を減らす一助になると考えられます。

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