安全在庫量と発注点をデータで決める——需要変動とリードタイムを使った医療機器サービスパーツ在庫適正化の計算手順

未分類

※本記事には広告・アフィリエイトリンクを含みます。

倉庫の棚に、同じ基板が15枚眠っている。

隣の棚では、頻繁に壊れるコネクタが在庫切れで、次の入荷まで2週間待ちだ。

「多めに発注しておけば安心」という判断が積み重なった結果、こうなる。

これは担当者の勘が悪いのではない。在庫量を決める仕組みが、そもそも存在していないだけだ。

よくある失敗

現場でよく見る光景が3つある。

一つ目は「前回の発注量をそのままコピーする」パターンだ。需要が減った部品も、増えた部品も、同じ数量で発注し続ける。

二つ目は「欠品が怖いから多めに積む」パターンだ。一度欠品でクレームを受けた担当者は、その後ずっと必要以上の数量を抱え込む。

三つ目は「リードタイムを固定値で見ている」パターンだ。仕入先の納期が平均7日でも、繁忙期には14日かかることがある。この変動を無視して発注点を決めると、平常時は過剰在庫、繁忙期は欠品という両方の失敗が起きる。

私が現場で見た例では、ある部品カテゴリだけで在庫金額の4割が「1年以上動いていない在庫」だった。一方で別の部品は年に3回も緊急発注していた。同じ倉庫の中で、真逆の問題が同時に起きていたわけだ。

なぜその問題が起きるのか

原因は個人の判断ミスではなく、在庫量を決める計算式が現場に存在しないことにある。

多くの現場では、発注量が「担当者の経験」と「なんとなくの不安」で決まっている。需要の平均値もばらつきも、リードタイムの実績も、データとして記録されていない。

さらに部品ごとに重要度が違うのに、同じ発注ルールを当てはめている現場が多い。人命に関わる装置の主要部品と、消耗頻度の低い外装パーツを、同じ「多めに持つ」基準で管理すれば、どちらかが必ず歪む。

これは情報設計の欠如だ。需要のばらつき、リードタイムのばらつき、部品の重要度という3つのデータが、発注担当者の頭の中にしかない状態になっている。

放置すると何が起きるか

在庫の歪みを放置すると、影響は在庫金額だけにとどまらない。

過剰在庫は保管コストとキャッシュフローを圧迫する。倉庫スペースが足りず、新しい部品置き場を借りる羽目になった現場もある。

欠品は現場対応の遅延に直結する。装置が止まっている時間が延びれば、顧客対応の質が落ち、クレームにつながる。

さらに担当者が異動・退職すると、その人の「勘」がそのまま消える。引き継ぎ資料に発注ロジックが書かれていないため、後任者はまた一から不安ベースの発注を始める。これは属人化そのものだ。関連する話として、担当者一人に判断が集中するリスクはこちらでも取り上げている。

改善するための判断基準

すべての部品にシステムを導入する必要はない。判断基準は3段階で考えるとよい。

まだ手作業でよいのは、発注頻度が年数回程度で、金額インパクトが小さい部品だ。この場合は簡単な計算式をExcelに組み込むだけで十分機能する。

テンプレートで足りるのは、需要とリードタイムのデータが揃っていて、部品点数が数十〜数百程度の現場だ。安全在庫量と発注点を自動計算するテンプレートがあれば、担当者の勘に頼らず判断できる。

ツール導入を検討すべきなのは、部品点数が数百を超え、複数拠点で在庫データが分散している場合だ。手作業やExcelでは更新が追いつかず、データの鮮度が落ちる。

安全在庫量と発注点の計算手順

計算の骨格はシンプルだ。

安全在庫量は「安全係数×需要のばらつき(標準偏差)×リードタイムの平方根」で求める。安全係数は欠品許容率によって変わり、欠品率5%許容なら約1.65、1%許容なら約2.33を使うのが一般的とされる。

発注点は「平均日次需要×平均リードタイム+安全在庫量」で求める。

たとえば、ある部品の平均日次需要が2個、需要の標準偏差が0.8、平均リードタイムが10日、安全係数1.65とする。安全在庫量は1.65×0.8×√10で約4.2個。発注点は2×10+4.2で約24.2個、つまり在庫が24個を切ったら発注する、という基準になる。

この計算に必要なのは、過去の出庫実績とリードタイム実績のデータだけだ。特別なシステムがなくても、Excelの標準偏差関数(STDEV)と平方根関数(SQRT)で再現できる。

今日できる改善手順

Step1:過去6〜12ヶ月分の部品別出庫データとリードタイム実績を1枚のシートに集める。データがない部品は、まず記録を始めることが第一歩になる。

Step2:部品ごとに平均需要・標準偏差・平均リードタイムを算出し、上記の計算式で安全在庫量と発注点を仮算出する。重要部品から着手すると効果が早く見える。

Step3:仮算出した発注点を1〜2ヶ月試験運用し、実際の欠品・過剰在庫の発生状況を比較する。ずれが大きければ安全係数を調整する。

この手順は特別なツールがなくても始められる。実際に試験運用した現場では、対象部品の在庫金額が2割前後減った一方で、欠品件数は増えなかったという声もある。

おすすめの次アクション

計算式が定まったら、次はそれを「誰がやっても同じ結果になる」仕組みに落とし込む段階だ。

発注判断が担当者ごとにばらつく問題は、部品在庫だけでなく作業品質全体にも表れる。関連して、作業のばらつきが顧客対応リスクにつながる話はこちら、担当者ごとの残業差が生まれる原因はこちらで扱っている。

在庫計算をテンプレート化したら、次は他の業務プロセスの属人化も見直すとよい。こちらでは脱属人化の進め方を整理している。

よくある質問

Q1. 安全在庫量の計算に必要な最低限のデータは何ですか

過去の出庫実績(需要データ)とリードタイムの実績記録の2つが最低限必要になる。データ期間は6ヶ月以上あると、需要のばらつきがより実態に近い数値で算出できる。

Q2. すべての部品に同じ安全係数を使ってよいですか

推奨されない。装置の稼働停止に直結する重要部品は欠品許容率を低く設定し、消耗頻度の低い部品は欠品許容率を高めに設定するなど、部品の重要度に応じて係数を変えるのが一般的な考え方だ。

Q3. リードタイムが安定しない部品はどう扱えばよいですか

リードタイムのばらつきも標準偏差として計算式に組み込める。需要とリードタイムの両方が変動する場合の計算式もあるため、変動が大きい部品ほどデータに基づく計算が有効になる。

Q4. QMS上、在庫管理の変更に承認は必要ですか

在庫計算式の見直しが品質記録や手順書に関わる場合は、一般に社内のQMS責任者や品質担当部門の確認が必要と考えられる。最終的な運用ルールの適合判断は、貴社のQMS責任者に確認してほしい。

在庫管理を仕組み化するためのツール

計算式とテンプレートで運用が回り始めたら、部品点数の増加に合わせてツールの活用も選択肢に入ってくる。

クラウド型在庫管理システム

部品点数が数百を超え、複数拠点でデータを共有する必要がある現場では、需要データとリードタイムを自動集計できるクラウド型の在庫管理システムが選択肢になる。発注点を超えたタイミングで自動通知される機能を持つものもあり、担当者の見落としを減らせる。

需要予測付きの発注管理テンプレート・ツール

Excel運用からの移行段階では、安全在庫量と発注点の計算式があらかじめ組み込まれた発注管理テンプレートやSaaS型ツールを使うと、計算ミスを防ぎながら属人化を解消しやすい。まずは無料の比較記事やテンプレート集で、自社の部品点数に合う規模感のものを探すところから始めるとよい。

この記事に関連するサービス・書籍

※ 紹介リンク・アフィリエイトリンクを含みます

コメント

タイトルとURLをコピーしました